2002. 08. 02.
寝袋から目覚めた俺は、畳の部屋で大きく伸びをしながら窓の外を見下ろす。
昨日までSPITFIREの両隣りにあった他の旅人達のXJRの姿は既になかった。
「しまった、ちと寝過ごしたか・・・」
ライダーハウス内の洗面台で顔を洗う。
真夏のものとは思えない、ひんやりした水が心地良い。
ケータイの時計が9時を過ぎかけているのを横目に充電器をひっこ抜き、シュラフやレインスーツを畳み始める。再び窓の外を見上げると、雲の切れ間が見えた。この様子だと昼過ぎには晴れそうだ。
そして僕は、北国の温泉街の朝を走り出した。
食事を終え、SPITFIREのフロントタイヤが目指すは屈斜路湖。
湖畔の温泉地帯に進むにつれ、屈斜路湖畔林道へと道はつづく。
今年こそ、ここの湖畔無料天然温泉郡3つを制覇するぞ!
まずは『池の湯』。
ここはその名の通り、池のようにかなり広い池(←要するに池だろ)の底から温泉が沸いている。町で管理されているので脱衣所がある。特徴としては屈斜路湖の湖畔に位置し、湯温は比較的ぬるめで藻が多い事だろうか。場所的にも人があまり来ないので一人でゆったり入れた。
次に『コタンの湯』。
無料天然温泉郡の中でも屈指の人気を誇るこの温泉。ここも町で管理されているが、天然温泉にしては珍しく浴槽は男女別(といっても真ん中に仕切りの岩がでーんと置いてあるだけだが)。男女別の脱衣所もある。屈斜路湖には手が届くほど近く、湖の雄大な風景を眺めながら温泉に入れる。居合わせた掃除のおじさんによると、火曜日と金曜日は掃除だから入れないとのことだ(掃除されているので綺麗)。ここは湯温は普通で、温泉に入りに来る旅人のバイクが停まっているので比較的国道からもわかりやすかった。
最後に『和琴半島の湯』。
屈斜路湖最南端に位置する和琴半島。そこにも温泉が存在する。
散策路を歩いていくと、人工的に作られた池が見えてくる。が、良く見れば湯気が立ち昇っていてようやく温泉だという事に気づく。男女別の脱衣所アリだが、散策路中にある柵無しの温泉なので、入るにはちょっとした勇気が必要だ。しばらく旅をしていて慣れたのか、散歩中のキャンパーがちらちら見る中僕はタオル無しで普通に入っていた。
その後屈斜路湖南端を走り、美幌峠を超える。
雲貫く峠からは、眼下に今まで走ってきた屈斜路湖や川湯温泉街が見える。
「いい湯をありがとう。またいつか絶対来るからな」
美幌峠を越え、給油ついでに美幌町の小さな市街地に立ち寄る。
本屋の駐車場で休んでいると、どこかの店からPOPSが聞こえてくる。
「世間では今、こんな音楽が流行っているのか」
自分が知らない間にも、時と共に文明が少しだけ進んでいた。
現代社会から少し離れていた俺は、ちょっとした浦島太郎な気分になった。
そして網走のコンビニへ。
そこで早稲田のチャリダー学生さんと一緒にメシを食いながら、旅についてしばし語る。
その後オホーツク沿いのR238を北へ向けて快調に飛ばし、興部(オコッペ。アイヌ語が語源)という町に行き着く。ここには旅人に無料で開放されている『列車ハウス』というものがあり、そこで宿泊できるという。
(列車ハウス:元々この興部には国鉄時代に列車駅があり、国鉄解体時に廃線になったものの、駅と列車体は宿泊施設として保存されている)
この晩は、すでにいた陽気なオフ車乗り達と夜がふけるまで旅話に明けくれた。
楽しそうに話すオフ車乗りの人たち。
そういえば今まで逢った旅人達も皆、こんなふうに目が輝いていたっけな。