AKITOのプライベートツーリング -HOKKAIDO 2002- 第11章

2002. 08. 06.

シュラフの横でアラームを鳴らしているケータイの日付を見る。

気がつけば、旅に出てからもう10日以上が経過していた。
その間に僕は、日付や曜日といった感覚がすっかり失せていた。

旅をしていれば、陽が昇れば何かに向けて走り、暗くなれば寝るだけである。
自分を束縛する日付など必要ない。
そんな旅の日々は、あと少しで別れを告げにくる。

よし行こう、4年間ずっと僕を待っているあの場所へ!

いつもより固く靴ヒモを結び、もやのかかる朝の町を乾いた排気音と共に走り出した。

しばらく走っていた国道を外れ、山道へと登って行く。
地図には林道としか描かれていない、荒れ果てたアスファルト。
木々の間から見える山々は次第に険しい崖をさらしてゆく。

山肌からは硫黄臭のガスが吹き出ている。はるか眼下には巨大な湯溜まりが。
あといくつか山を越えたその先に、あの場所が待っている。

地すべり跡の赤茶色の崖。
深い谷の底から立ち昇る煙が、谷の険しさを物語る。
もちろん、落ちたら一瞬で全てが終わる。


そして山を越え続けて3時間。既に辺りは薄暗くなっていた。

着いた・・・・
ずっと・・・ずっと求めていた風景・・・


僕の記憶の中には、いつの日か紛れ込んできた不思議な風景があった。
それは、時代も文化もまったく現代とは違う異世界の風景。
そこには、遥か遠くを目指す旅人達の姿があり・・・そこには僕もいた。
彼らとの旅の記憶は・・その頃腐りかけていた僕の全てを変えた。
今でもはっきり覚えている。長旅の中で彼等と過ごした最後の地、そこでリーダーは皆にこう言ったんだ。

『みんな、今までありがとう。生きていればまた会える。いつかこの町でまた逢おう。』

美しい湖のある町で僕達は約束した。またこの地へ必ず来ると。そして、今回僕は旅に出た。消えてしまいそうなおぼろげな記憶の中にいる仲間達を追って。たとえ僕の見たものが夢だろうが幻であろうが、そうでなくとも彼等と違う次元の世界に生きていようが関係なかった。
僕はこっちの世界でバイクという鉄の馬を手に入れ、再び旅人としてこの地へ来た。
ここが約束の地かどうかはわからない。しかし、ここは記憶の中のあの場所とただならぬ程近い雰囲気が漂っている。
数億分の一の確率でも良かった。万が一にでもあの仲間達と会う事ができたら・・・全てを捨て、俺は再び彼等と旅立ちたい。覚悟はできている。あの日からずっと。

何時間か経過しただろうか。俺の待っている”彼等”は現れなかった。

・・・いつかどこかで会えるかな?
この空は彼等の空と繋がっていると思うから・・・


その夜、俺は予約をしていた旅館(ライダー部屋はなんと1300円!)の風呂に浸かっていた。

「腹減ったなー、上がったらメシでも食うかな・・・」

久々の風呂だったが、はしゃぐ気にはなれない。
ただシャワーが体を叩く音だけが、一人きりの大きな風呂場に寂しく響いていた。

タオルを首からかけながら風呂から上がる。
部屋に行くと、他のライダーが2人と旅館のオーナーが来ていた。
すると、オーナーらしき人物が声をかけてきた。

「おぅ兄ちゃん待ってたよ!みんなでやきそばでも食おう!」

や、やきそば!?(やぶからヘビな話だ・・・)

「やきそば美味いぞ!あっちの部屋に用意してあるから。あ、おっちゃんのおごりでいいから心配すんな!」

他のライダー達と少し広い畳の部屋に移動すし、ホットプレートでやきそば大会が始まった。
笑いながら思い出話を語り合う俺達。
傍らには久しぶりに見るテレビがバラエティを流している。

「おっちゃんはな、やきそば大好きだから毎日食ってんだ!だからいつでもこんなに置いてあるってわけだ!」

毎日やきそば!?何ともサイヤ人もびっくりなおっちゃんだ・・・!
この後さらにビールも入り、この夜は多いに盛り上がった。

その時、何故かほんの一瞬、不思議な感覚に襲われた。
(あれ?まただ、この感じ・・・何だかひどく懐かしい感じがする。羅臼の時もそうだった・・・)

そして数時間後。時計は既に22時頃を指していた。
ライダー部屋でくつろいでいる俺達がいた。

2人のライダーのうち1人は、昨日北海道に来たばかりのライダー。
俺ともう1人で、彼に旅の術を早速伝授したり、穴場を教えてあげたりしていた。
そんな感じで話しこんでいた時だった。

『ザザー・・・・』

どこからか雨音が聞こえる。

「なんだ~雨かよ~」
「明日まで降り続いたら連泊しようかな~」



・・・・・・・・・。

外では容赦なく雨がどんどん勢いを増してゆく。

(・・・・・・何だ?・・・変な感覚がする・・・・・・)

突然、何かが思い出せそうで思い出せない感覚に陥る。

(僕・・は・・・あそこへ・・・行かなかれば・・・!)


『ザザザザーーー!!!!!』

旅人2人の制止をよそに、鍵のかかった旅館の玄関を開ける。
外は滝のようなひどい雨で、旅館前の斜面になった道路は既に半分川になっていた。玄関にあった適当なビニール傘をさすが、雨の勢いは傘の素材の塩化ビニールを突き破りそうな勢いだ。僕は豪雨の中、人気の消えた夜の小さな町をあの場所へと歩いてゆく。

「そうだ、僕は何のためにここまで来たんだ!彼等と最後にあの場所で会ったのはこの時間帯だったはずだ!
今行けるところまで行かないと一生後悔しちまいそうだ!」

しばらく歩くと町はどんどん遠ざかり、街灯も次第に少なくなっていった。相変わらずバケツをひっくり返したような雨が、傘の横から体に容赦なく降り注ぐ。それでも構わない。脳内が沸騰しているかのように熱い。まるで、熱い何かに衝き動かされているような、操られているよな感覚だった。

そしてそれは見えてきた。
漆黒の闇の下に黒く広がる夜の湖。僕はさっきここを目指して来たんだ。闇夜と黒い水面との境界線が、豪雨のせいで一層曖昧になっていた。

(頼む・・・・奇跡よ起こってくれ!僕は旅人ごっこをしにここまで来たんじゃない。
あなた達を4年間ずっと追いかけてここまで来れたんだ!!)


その時だった。


傘を突き破る猛烈な勢いだった雨が急に止んだ。

そして・・・目の前の湖に景色が映し出された。

遥か対岸の光が、鏡のような湖の水面に、まるで宝石を散りばめたかのように映し出された。
僕は全身が震えた。そして止まらなかった。

なぜなら、4年前のあの日、僕達が最後に過ごした地の風景にそっくりだったから・・・

(旅人である彼等を追いかけていたら、いつの間にか俺も旅人になっていたんだな。
彼等を見つける事はできなかったけど、今俺は、彼等の気持ちがわかるようになったんだ・・・)

旅の中で体験した不思議な懐かしい感覚。
あれは、仲間達と過ごしたほんの僅かな記憶と重なる部分があったからだろう。

(約束の地は恐らくこの場所じゃない。でも、絶対どこかにある。
目前に広がるこの景色が教えてくれた気がする)

この瞬間、不思議な事だが、僕は確かに全身に熱いものを感じた。
それは、自分に「確信」を与えてくれた。
自分が旅をつづける確信を。

真夜中の湖に集まる、旅人たちの魂に心を寄せて・・・

Midnight Spirit…



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