日曜日は久々にソロツーリングに行ってまいりました。
朝起きて窓の外を見るとドヨ〜ンとした曇り空。おいおい、天気予報は晴れマークだったのになんでやねんとテンションが下がる。曇った景色の中を走っても面白くなさそうだし、雨に降られたら寒そうだから今日も家でHP更新かな…と思い始めたものの、かつてバイクに乗り始めた若い頃はそんな事まったく気にせずに出撃していた事を思い出し、取り敢えず出発してみることに。
まずは埼玉県の秩父の山奥へ!

以前は仲間とちょくちょく行ってたものの、時間の関係でいつも途中で引き返していた場所だ。

  
どんよりしていたはずの空模様はいつの間に澄み渡る秋空に変わり、色付き始めた木々がキラキラと輝いていた。
「この山の向こうに広がる未踏の地へ行きたい」
衝動がふと湧き上がってくる。

これだ…以前走り回っていた頃の原動力は。

社会人になって10年も過ぎると、趣味の領域にさえ天気予報だの帰りの時間だの効率の良い予測を立てすぎてしまう。その結果、エラーを確実に避ける保守的な選択しかできなくなってしまい、新しい発見ができなくなる。

そんな理性的な選択ではなく、たまには湧き上がる衝動に正直になるのもいい。無駄な結果になるかもしれないが、遊びゴコロはそこにあるはずだ。

さぁ、今こそ壁を貫け。

スロットルを捻り、峠道を駆け上がってゆく。

県境を越えて群馬県、そして長野県へと差し掛かった。飛行機の窓から見るような山々の尾根や、キラキラ光るダイヤモンドのような紅葉のトンネル。いつも引き返していた壁の向こうにこんな世界が広がっていたなんて。

なんて最高な景色。明日の事なんて気にせずにまだまだ走りたい。いま俺は馬鹿になっている。明日は5時起きで仕事だけどそんなの知るか。帰りがしんどくなったら高速道路でワープすればいいさ。
そして最終的に辿り着いたのは、R299(ロマンティック街道)の八千穂高原。

  
元々行くつもりも無いどころか名前すら知らなかった場所。道路脇に立て看板があったから寄ってみたら、ハッとするような綺麗な場所だった。

  
「壁」を貫かなかったら出会うことの無かった景色。この突然のご褒美は、理性的な選択では手にできなかっただろう。

  
やがて日が沈み、あたりが寒くなってきたので急いで帰路につく。県境を4つ越えて自宅からは結構離れてしまったので、中央自動車道をひたすら飛ばす。しかし大月から八王子まで渋滞がひどく、人の気配のない真っ暗な山道をひたすら走る。
しばらく走ると、いつの間にか林道を走っていた。どこか見覚えのある道。思い出した…ここは15年前の秋ににドラッグスタークラシック「SPITFIRE」で人生初のツーリングで走った時の道だ。

あの時以来ここは一度も走っていなかったけど、恐ろしく狭い道幅もヘッドランプに照らし出される紅葉のトンネルも何も変わっていない。月明かりすら届かない深い森はまるで時代から隔離された迷宮。ここは18歳のあの時の空気が漂ったままだ。

「ここはタイムトンネルか?」

不思議な感覚が脳内を支配し始めた。

…そこに居るのか?

…バイクに乗り始めたばかりの18歳のAkitoよ、俺は15年先の未来のお前だ。

一体どんな未来が待っているのかって?まぁそんなに心配するな。詳しくは言えないがお前が今いくつか抱えている心配事は解決しているし、小さな夢もいくつか叶っている。バイクにもまだ乗っている。一番大きな夢は残念ながら叶わなかったが、元々お前には向いていなかったし、また新しい夢を追い掛け始めているよ。だから後悔のないようにやりたい事を精一杯やれ。

そして15年先の未来の俺へ。まだバイクには乗っているのか?ハーレーに返り咲くことはできたのか?子供は大学受験の真っ只中だろうな。俺自身はきっと人生の色んな壁を越えて白髪の混じり始めたオヤジになっているだろうし、両親もこの世にいないかもしれない。Midnight Spiritはどうなっているだろう。それよりも教えてくれ、俺は今やりたいことを精一杯やれているか?

「ブロロロロロ」

虚空への問いかけに答えはあるはずもない。

その代わりに、単気筒の乾いた排気音と落ち葉を踏む音だけが意識を刺激し、暗闇の中でスロットルを捻りながら生きているリアルな実感をもたらし続けた。
やがて紅葉のトンネルが終わり、国道へと差し掛かった。

後ろは振り返らない。決してミラーは見ない。

もうあの紅葉のトンネルには近づかない。再び通るとしたら15年後にしよう。

今まで来た道を少しづつ振り返り始めた秋。

命あるものは生きている限り変化し続ける。
たとえ望まなくとも、そのまま変わらずにいることはできない。良くも悪くも変わり続ける宿命を背負っている。

空を飛ぶ鳥も空中で立ち止まることはできないが、望む方向へ飛んでいくことはできる。

さて、人生・第二章かな。