セローちゃんとお別れ②

「ロードグライド、乗るかい?」

その言葉に思考が停止する。

ロードグライド…

忘れもしない2010年の春、当時の愛車ロードグライドが何者かによって盗み出され、もぬけの殻となったガレージの前で僕は茫然自失になっていた。

すぐに地元の神奈川県警や横浜税関にも必死に掛け合ったがほとんど相手にされず、当時の上司からは「生意気なもんに乗ってるからだ」と嫌味を言われ、挙げ句の果てに窃盗の下見をする怪しい車を尾行していたミニバイクまで盗まれて、当時は精神的にかなり荒れ果てていたと思う。ちなみに、このブログに度々登場するジョルノはこの頃妹から「兄にゃんかわいそうだからコレあげる」と貰ったものだ。

それでもバイクだけは、バイクに乗り続ける事だけは諦めてたまるかと思い、スズキのアドレスV125G(156ccの軽二輪登録車)を入手。当時住んでいた実家の小さな庭に隠せるサイズで高速にも乗れる!との事で、実際にテントを載せて四国や九州までロングツーリングをしたのは今でもいい思い出だ。

その後、アドレスをバイク仲間のセロー250と物々交換。この頃には結婚していたのでロングツーリングに何日も出掛けることはできなかったものの、今まで踏み入れた事のなかった林道に挑戦したり、アドベンチャースタイルにカスタムして1日600km以上走ったりと、実に頼りがいのある相棒だったのだ。

それでも、ロードグライドの事はどうしても振り切ることが出来なかった。ある日道端に止まっているのを見つけて、興奮しながら跨って「書類とか無いのにどうやって再登録しよう」と考えているシーンで夢から覚めるというのを100回以上は見ただろうか。相棒のカスタムや旅に夢中だった日々を、思い出として昇華するにはあまりにもショッキングな別れだったのだ。

そんな中、同じロードグライドにまた乗ることができるという今回の話に、僕は迷う事なく乗らせてもらう事にした。もちろん、前オーナーにとっての大切な相棒を引き継ぎ、ちゃんと手を掛けて維持していけるのか真剣に考えた上で決めたことだ。幸いにしてロードグライドを維持するのは今回がまったく初めてではないし、安全に保管する場所を確保できる算段もついている。

捨てる神あれば拾う神あり。

考えてみれば、ハーレーを引き継げるなんて前代未聞のとんでもなく幸運な話だ。僕は普通の会社員で子どもにはこの先何かと手間も掛かるし、ここで乗らなければもう多分一生乗れないだろう。とはいえ、単にラッキーというより本当に自分でいいのかという気持ちはあった。

そして良く考えた末に出した結論は、自分のセローを代わりに差し出すこと。確かに、1700ccのハーレーと250ccのセローじゃ全く吊り合いはとれていない。しかし、彼が軽いバイクを欲しがっていたこと、チューンしたエンジンを気に入って頂けるかもしれないこと、そして自宅にはバイクを3台も置けないことが背中を押した。

以上がセローを手放すことになった事の顛末で、次回はいよいよセローについて書く記事としては最終回となる。