痴漢容疑と満員電車

毎朝、僕は満員電車で通勤している。

特に何も珍しくもない、日本の至るところで見られる朝の通勤風景。それがまさか一瞬で恐怖に染まろうとは思いもしなかった。

昨日のことだ。

僕はいつも通り、上り方面の満員電車に揺られていた。車内は本を広げられないほどの混雑っぷりで、左隣には右手でスマホをいじる女子高生、そして正面には横向きのスマホを両手で操作している30代とおぼしきサラリーマン。
まさに平穏な車内といった雰囲気だが、その終焉は静かに訪れた。

スマホのメモ帳アプリに何かを入力していた女子高生が、画面をサラリーマンに見せた。混雑している車内のことだ、きっと知り合い同士で声を上げずに筆談でもしてるんだろう。それに気付いたサラリーマンも自分のスマホから顔を上げてそれを見たようだ。

そして、女子高生は再びメモ帳アプリに何かを入力し始めた。一体どんな会話をしてるんだろう。昨日のドラマの話か、それとも週末のデートの話題か。ちょっとした好奇心でチラ見したその画面には、予想外の言葉が打ちこまれていた。

『も う や め て も ら え ま せ ん か 』

……⁉︎

な…どういう事だ、これはまさか痴漢か?
呆気にとられている僕の目の前で、女子高生はその画面をサラリーマンにぐいっと見せつけた。彼は目を丸くしたまま数秒間固まり、絞り出すような声で「え、俺…?」と呟いた。

女子高生は再びスマホの画面に目を落とし、また何かを早打ちで入力し始めた。僕より背が低いのでよく見えてしまうその画面には、更に畳み掛けるようなひと言が。

『次 の 駅 で 一 緒 に 降 り て 』

まさかの展開。目の前でこんな事になるとは…。当事者じゃないのに心臓バクバクな僕をよそに、女子高生は再びスマホ画面をサラリーマンにぐいっと見せつけた。

「いや、違う違う…俺してないよ…」

もはや顔面蒼白のサラリーマンは、声を絞り出すのが精一杯という様子。彼を睨みつけている女子高生は本当に誰かに触られたのかもしれないが、このサラリーマンは確かに両手でスマホをいじってたからそれは無理なはず。しかし、たとえやっていなくても女性に一旦疑われたらほぼ終わりというこの痴漢問題。果たして彼はこのまま連行されてしまうのか?

…問題がこじれるようなら、証言しよう。

そう思いながら様子を見続けていたが、それ以上女子高生はサラリーマンを追及することは無かった。誤認逮捕にはならなかったけど、お互いモヤモヤしたままだっただろう。

そして何より一歩間違えれば隣の僕が疑われていたし、スマホ画面ではなく「やめてください」と声を出されて他の乗客に取り押さえられて反論の機会も無いまま連行→社会的な死がコンニチワ。さっきの心臓バクバクの理由はまさにこれだ。

もちろん一番悪いのは痴漢だ。こいつのせいでされた方も疑われた方も嫌な思いをしているし、立ち小便と同じ軽犯罪扱いだからやる側の気持ちも軽いのかもしれない。しかし、昔より鉄道運賃は上がっているのに昔と変わらずぎゅうぎゅう詰めにされるから、こんなトラブルも未だに減らない。

女性専用車両を設けたところで痴漢件数は減っていないし、多くの女性は以前と変わらず普通車両に乗るのでそもそも意味がない。
この際、大部分をトイレみたいに男女別車両にして強制的に隔離してしまえばいい。家族やカップル、友人同士で乗れる男女混合車両も数両用意して、それには監視カメラを多数設置。ここまですれば痴漢被害は減るだろう。

満員電車での通勤が怖くなった社会人のぼやきだけどね。

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