ピピピピピピピピピピ


「ん、ようやく朝か…」


スマホの目覚ましで目が覚めた。

まだこのホテルはWi-Fiが来ているものの、そうでなければSIMカードを抜いたこのスマホはほとんど時計代わりにしかならない。

そのWi-Fiを経由したネットも、Googleをはじめとしたいくつかのサイトは当局によって接続が遮断されている。こういう時には日本という国がどれだけ自由で平和かということを実感してしまう。


レストランで朝食を済ませ、ホテルから歩いてすぐの上海支社に出社すると、他にもアジア各国からの中途採用者たちが続々集まってきた。
中国、韓国、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール…全部でざっと50人ほどだろうか。今回、2日間にわたってアジア地域の中途採用者向けの研修が行われるとのことで、その間の会話は共通語である英語のみ。集められた参加者は一定レベルのTOEICスコア保持者とのことで、もちろんほぼ全員が英語ペラペラだ。

え…俺?
そりゃもう絶望的だのなんのって…

TOEICスコアも読み書きで稼いだので、英会話なんて当然サッパリだ。特に英語耳が全然できてないので、研修のグループワークが始まっても耳をダンボにしながら何度も訊き返すしかない。

四川省出身の同期によれば、英語をペラペラ話している目の前のアジアの若者たちは、子供の頃から相当な競争を勝ち抜いてきた猛者ばかりだという。特に、ここ上海は一定条件を満たした人民に付与されるビザが無いと居住できない経済技術開発区で、そこにに勤めている中国人は羨望の眼差しを一身に受ける生粋のエリートというわけだ。

一方、こちらは身振り手振りを交えてひどい英語で必死に伝えようとするが、そんな自分を彼らは「それってつまりこういう事かい?」と受け止めてくれる。エリートでしかも優しいとか、もはや非の打ち所がなく完敗である。俺ももっと真面目に勉強していれば…いや、もっと早く海外に行って外の世界を知っていればと悔やまれる。

やがて2日間の研修が終わり、東方明珠電視塔(テレビ塔)近くのレストランを貸し切ってディナーパーティーが執り行なれた。色んな国の人と話したが、特にバスの車内から仲良くなった中国人は上海の家賃が恐ろしく高いこと、少し前まではトヨタが多かったが今はフォルクスワーゲンが一番人気なことなど色々教えてくれた。


もっと英語でペラペラ会話できれば、世界中の人間とまではいかなくても、今とは桁違いの人々と知り合えるはずだ。狭い日本を飛び出しても色々楽しめることは、すなわち絶大な自由を手にすることと同じではないか。

よし決めた。

次の挑戦は英語をペラペラ喋れるようになること。長期的な目標だけど挑む価値は大いにあるはずだ。