小雨が降りしきる、木曜日の朝のこと。
(この天気じゃチャリ乗れないな…久々にのんびり電車で行くか)
そう思い、いつもより20分ほど遅く自宅の最寄り駅に到着。3番ホームで急行新宿行の列に並んでいると、間もなく電車が滑り込んできた。
そして電車がホームに到着し、ドアが開くと同時に列も動き出した。僕も列に続いて歩き出すと、5メートルほど左から同じドア目掛けて近付いて来る小柄な男の姿が見えた。その速度だとちょうど僕と同時に電車に乗り込む事になりそうだ。
(…横入りする気か?こっちは10人ほど並んでるのに)
そして2〜3歩進むと、やはり男は当然のような顔をして僕の目の前に割り込もうとしてきた。僕は手で遮り、「みんな並んでたんですが」と制した。
「あぁすいません」と言って男は退いてくれるものかと思ったが、そうはいかなかった。
「あァ?うるせーなどけよ!!」
突然、男は敵意を剥き出しにして威嚇し始めた。
(なんだこいつは…)
「だからみんな並んd
その瞬間!!
バキッッッッ
強い衝撃と共に一瞬視界が吹き飛んだ。
(こいつ殴りやがった!)
左目あたりを殴られてメガネが吹き飛んでしまったが、ぼやけた視界の中で男は僕に背を向けて走り出していた。ふざけるな、絶対に逃がすものか!
とりあえずメガネは後回しにして、5メートルほど追いかけたホーム上で男の腕を掴んで取り押さえた。以前ひき逃げされた時の教訓だが、犯罪被害に遭ったら基本的にその場でとっ捕まえなければ泣き寝入りする可能性は高い。逃げた犯罪者が後日捕まったニュースが時折TVで流れてはいるが、あれは珍しいことだからニュースになっているにすぎないのだ。
「離せテメーこの野郎!!」
取り押さえた男が叫びながら暴れだした。
これは早めに応援を呼んだ方がいい、そう思ったので「殴られたんで誰が来てください!」と大声を出した。
間もなく、どこからか駅員が2人ほど駆け付けてきた。息も切れ切れに事情を話すと、あとは駅長室に連れて行くとの事なので、僕は男を取り押さえていた手を離した。
その瞬間!!
男は立ち上がったと思うと、発車ベルの鳴り出した電車に飛び乗った!
このまま逃げ切られてしまうのか⁉︎
(つづく)