さて、今日はいよいよ4代目デミオのドライブレビューといってみよう。
  
今回借りたのは1.5Lディーゼルターボエンジンを搭載した「XD」ではなく、1.3Lガソリンエンジンの最安グレードの「13C」。先代デミオ後期型から採用されているSKYACTIV-Gというタイプで、スペック的には92PS/6000rpm、12.3kgf・m/4000rpmという標準的なものですが、圧縮比を12.0まで上げて燃焼効果を高めることで低燃費を実現。今回レンタルした4日間はほぼ下道ばかり走りましたが、3人乗車+荷物積載にもかかわらず21km/Lという低燃費っぷり。その上、先行車の追い越しなどでシフトダウンしてぶん回すとスペック値以上にぐいぐい加速するので、ちょっとこれは嬉しい誤算でした。

トランスミッションは先代までのCVTに代わり、なんと6速ATを採用しています。CVTのようにアクセルの踏み込み方で回転数が簡単に変化せず、右足がスロットルにそのまま繋がっているかのようなダイレクト感が楽しい。ロックアップ領域も広く、今回21km/Lという低燃費に貢献したのは決してエンジンだけではないはずです。ドライバビリティを犠牲にしてまで低燃費を狙うCVTはある意味ストイックですが、ドライバビリティを確保しつつ同等の燃費を叩き出すこの6ATがあるならもうCVTを選ぶ理由が無くなってしまいます。

そしてこの6AT、最安グレードにもかかわらずスポーツモードとマニュアルモードがちゃんと着いています。スポーツモードとはエンジン回転数を高めに保つものでコンパクトクラスでも珍しくはないですが、ギヤを任意に選択できるマニュアルモードが着いていたのにはびっくり。パドルシフトでは無いものの、まるでMT車のようにシフトレバーを前側に倒すとシフトダウンし、後ろ側に倒すとシフトアップ。AT車の動きに合わせた他社車とは逆のパターンですが、MAZDAのスポーティな考え方に感動しました。MT車のようなダブルステッチの革製シフトブーツもついていて気分も高まります。

足回りはフロントがストラット+ベンチレーテッドディスク、リヤがトーションビーム+ドラムという標準的なものですが、フロントにはスタビライザーを装備。引き締められた硬めの足回り、レスポンスの良いブレーキのお陰でVWポロのような欧州コンパクト並にソリッドな印象。「快適な乗り心地を実現しました」とかいって何を踏んでも気付かないようなフニャフニャ足回り+ひたすら軽いパワステの国産コンパクトもありますが、路面からのインフォメーションが無いと視覚だけで走行状態を把握しなければならないので疲れるんです。デミオはスペック表に現れない感性領域まで作り込んでいるといいますが、確かに走行状態をステアリングから両手へ、ペダルから両足へ、そして硬めのシートから体全体へと絶え間なくはっきりと伝えてくれる。報連相がしっかりしている新人社員みたいでマネージメント側としては嬉しい限りです。

適度に重さを残したステアリングはチルト(上下)だけでなく、なんとテレスコピック(前後)も調整可。シートも単に硬めなだけでなく、サイドサポートがスポーツモデル並に出ていて横Gに負けずに背中をホールドしてくれて、リフター(上下)の調整幅もかなり広い。アクセルペダルは微細なコントロールのし易いオルガンタイプで、更にフロントタイヤハウスの張り出しを限界まで小さくすることで自然なレイアウトを実現。運転姿勢をクルマに合わせるのではなく、クルマ側から合わせに来てくれる。ここまでくると「これは本当にベーシックカーなのか?」と驚きの連続です。

これだけハイスペックなデミオ、もちろん高速もワインディングもとにかく楽しくて快適そのもの。「コンパクトカーはあくまでも女性の街乗り用」と旧来の退屈なヒエラルキーに押し込められたものではなく、クルマ本来の性能をあらゆるステージで発揮できる要素を凝縮した革新的なコンパクトカーです。上級グレードではクルコンも装備されますが、それは高速道路での長距離走行もしっかり考慮した設計がされているからこそ。高速走行する機会の多い人にも、フル乗車しないのであればデミオ(特に1.5Lディーゼルターボ)はお勧めできます。

とにかく、この4代目デミオをひと言で表すなら「ライバル不在」。経済性に優れた安いコンパクトカーは数あれど、少し予算を追加して1クラス上のプレミアムなものを、という需要に応えたニッチな国産コンパクトモデルはデミオだけ。直接の競合車は存在しません。「プレミアムな車が欲しけりゃ1クラス上の高級車を買えばいいじゃないか。コンパクトカーなんて恥ずかしい」という考えはもうカビの生えた昭和の価値観なのかもしれません。大きい=豪華、小さい=貧乏くさいのであれば、セレブはみんな大型ダンプカーに乗ってるはず。等身大のスモールサイズに上級車の要素を凝縮されたプレミアムコンパクトは、車カーストの殻を破ったエポックメイキングな秀作として後世に名を残したに違いない。