「宮ヶ瀬湖がすごい事になってるぞ」

先週、LINEで仲間からそんなひと言と一緒に届いた数点の画像。そこには、水をいっぱいに貯えた普段の姿からは到底想像できない、湖底が一部露出した宮ヶ瀬湖が映っていました。

宮ヶ瀬湖は神奈川県の北西部にある人造湖で、日本で3番目に大きい宮ヶ瀬ダムの2000年の完成と共に誕生しました。東京から比較的近い大自然ということもあり、休日には沢山の観光客で湖やダム周辺が賑わっています。

しかし、深い山々の間に水を貯えたこの宮ヶ瀬湖の底には、かつて別の風景が広がっていました。

時代は1990年前後。季節はちょうど今頃だったでしょうか。後に水没予定地となる宮ヶ瀬の深い谷のキャンプ場は、首都圏各地から集まってきた観光客で賑わっていました。浅瀬を得意顔で渡るRV車、河川敷を自由自在に走るオフロードバイク達、慣れない手つきでテントを組み立てるお父さん達、レジャーシートに手製のお弁当を広げるお母さん達、そして岩場から清流に飛び込む小学生の僕。ラジオからは中森明菜が流れていました。

今でも脳裏に焼き付いている、遠い夏の記憶。

やがて運転免許をとり、懐かしいその場所を訪れようとしたものの、もう深い水の底に沈んだ後でした。あの場所は二度と現れることはなく、静かに永遠の眠りについた。そう思っていました。

ところが…

冒頭の友人からのLINEを確認するや否や、すぐに宮ヶ瀬に向かった僕を待ち受けていた光景は…


水面下から現れた、かつての県道。
こんな狭い道を大型バスがすれ違っていた。
長らく穏やかな湖の中に眠っていたとはいえ、ガードレールや路肩の一部は崩落が進んでいた。


上側に見えるのが現在の県道。
法面の緑と茶色の境目がいつもの水面なので、ここはもう魚の住む世界だ。しかし、もともとは木々が覆い茂る自然豊かな場所だった。


30km/hの速度標示。
上の橋を手で隠してしまえば、今でも先の集落へと続いてそうな錯覚をおぼえる。こののどかなホームウェイで故郷に二度と戻ることができなくなった住人の気持ちは、とても想像しきれない。


上の橋から旧道を見下ろすと、道路標識が見えた。
もう二度と車が通ることのない急カーブで、水中でも崩れることなく追越し禁止を警告し続けていた。遥か30年ほど前の夏にも、こいつはキャンプ場に向かう車の後部座席の子供のAkitoを見ていたはずだ。
久しぶり、また会いにきたよ。


やがて橋が現れた。
これは対岸の村道を建設するための道路の仮設橋だが、撤去を待たずに貯水を開始したのだろう。その手前には、崩落防止の土手のような構造物が県道に張り出していて、もはや道路としての機能は死んでいる。奇跡的に現れた旧道があの夏に通じていそうな錯覚を覚えたものの、結局時計の針は戻せないという現実を突きつけられたようで少し悲しくなった。

というわけで、水位の下がった宮ヶ瀬湖でした。

来週はもう少し水面が下がらないかという期待をしていましたが、今週神奈川県を襲った記録的な豪雨によって旧道は再び深い水の底へ還っていったという…