「天気もいいし、ちょっと走りに行こうぜ」と地元の仲間に声を掛けた土曜日のこと。

蒼い冬空と凛とした空気の下、宮ヶ瀬湖へ向けてバイク2台が走り出した。走り慣れた地元の山道、リズミカルにコーナーを連続させながら湖畔へ向けて高度を上げてゆく土山峠。ここはかつてドラッグスターから始まって歴代のバイクで数えきれないほど走り込んだお気に入りのコースだ。

だからこそ油断していたのかもしれない。

僕と仲間の前には、1代台のスポーツカーが走っていた。マツダのNB型ロードスタークーペ。オープンが普通のロードスターの中でも異色の存在でかなりレアなモデルだ。そのセクシーなリヤ周りを後ろから眺めていたが、そのロードスターは峠区間に入るとなかなかいいペースでスピードを上げ始めた。

軽量スポーツカーならではの身のこなしに、本当に5ナンバーなのかと驚くようなプレミアムクーペのようなワイドプロポーション。そのロードスターからは次第に離されつつあったが、「もう少し眺めていたいな…」そう思いながら僕もスロットルに力を入れた。

軽くブレーキングしながらコーナーに侵入し、車体をバンクさせながらスロットルをじわじわと開ける。体がシートに斜め後方に押しつけられるのを感じながら、バンクを立て直して先方のロードスターが進入している次のコーナーへ。自由自在、やばい、楽しすぎる。

ふとミラーを見ると、すぐ後ろにいたはずの仲間のバイクが結構遠ざかっている…次のコーナー抜けたらペースを落とそうかな。

そう思いながら右の中速コーナーに進入していく。視界の先でロードスターが立ち上がってゆくのを見ながら、リーンインで車体を倒し込む。続いて減速帯を踏み始めたタイヤがガタガタと等間隔で上下運動をし初めた。「もう少し脱出スピードを上げられるかな」…そう思いながらじわじわとスロットルを上げたその瞬間!

ズリュリュリュ!!!

急激に視界に迫るアスファルト。

タイヤの焦げた匂いと完全に抜けたグリップ。

車体の全重量が右足首を直撃し、抗いようのない勢いで地面が膝を擦りおろし始めた。その「強制ブレーキ」で減速し始めた自身から、火花を散らしながら数メートル先を滑走するセローが見えた。

(つづく)